2019.07.19
金メダリストが語る高地トレーニングvol.1 初めての高地トレーニング
初めまして!
2019年4月より湯の丸高原スポーツ交流施設PR大使を勤めています、金藤理絵です。
長野県東御市に湯の丸高原スポーツ交流施設 特設プール(標高1,730m)が完成します。令和の始まりと共に、日本国内の水泳高地トレーニング元年を迎えるにあたり、全5回で高地トレーニングをテーマに連載させていただきます。
金藤 理絵(かねとう りえ)
1988年生まれ、広島県出身。
2016年、リオデジャネイロオリンピック女子200m平泳ぎで金メダルを獲得。
初めての高地トレーニング
私が進学した東海大学では毎年2月にアメリカのフラッグスタッフ(標高2,100m)という場所で高地トレーニングを行っていました。
高地トレーニングを初めて行う人が一番気をつけなければならない事は、体調管理です。いきなり平地と同じ生活・練習をしてしまうと体調を崩してしまいます。いわゆる高山病です。
2008年2月に行った初めての高地トレーニングは、2008年4月に行われる北京オリンピック選考会の為の最終強化合宿。体調を崩す訳にはいきません!
高地トレーニング中に気をつけなければいけないことも多々ありますが、高地トレーニングに行く前から、準備が始まっていました。
準高地トレーニングからのスタート
標高1,300mでのトレーニング
2007年10月から2008年2月までの間で数回、長野県菅平にある標高1,300mほどの場所で準高地トレーニングを行いました。毎年、年末年 始の期間を利用し、1週間ほどの年越し合宿を行っていますが、それに加え連休を利用し、2泊3日の短期間での合宿を3回ほど実施しました。
計4回の準高地トレーニングも全て内容が異なり、1回目の合宿は水中練習の代わりに散歩や山登りなど、トレーニングというよりも酸素が薄いことに慣れる事が目的でした。なので水中練習もハードな内容は少なくとても楽しかった思い出があります(笑)
体調管理・チェックが重要
合宿を重ねる毎に、慣れの部分が少なくなり、ハードな練習内容が増えていきました。トレーニングの内容が変化していくなかでも変わらなかった事は体調管理・体調チェックです!
毎朝の体温、就寝後・起床前のSpO2(※) (毎回マネージャーが選手の就寝時に測定してくれました)、トイレ(尿・便)の回数、睡眠の質、体調の変化(頭痛やだるさなど)を毎日、下山後も数日チェックしていました。
SpO2は寝ている時以外も、練習前のストレッチ中、アップ後、練習後など、1日10回前後測定していました。
※SpO2…酸素飽和度。体内のヘモグロビンと結合した酸素量の割合。通常平地では97%前後だが、体へ負荷が高い状態だと低下する。
食事の量への留意
その他にも、食事の量にも気をつけました。高地環境では、食事の消化も遅くなり、平地通りの食事をしてしまうと下痢をしやすくなったり、尿の回数も増えるので脱水症状をおこしやすくなります。それに加え、トレーニングを行う事で身体だけでなく内蔵にも負荷がかかります。
これが高地トレーニングで体調を崩しやすくなってしまう、回復も遅くなる原因です。なので、最初は食事の量を減らし、消化に悪いものは避け、喉が乾く前に水分を補給することなどが大切になります。
そのため、最初は食事の量を減らし、消化に悪いものは避け、喉が乾く前に水分を補給することなどが大切になります。
いざ!高地トレーニング
初日から2日目
体調を崩さないよう、充実したトレーニングを行えるよう、しっかり準備をして2月の高地トレーニングに望みましたが、油断は禁物!先ほど紹介した注意すべき事はもちろん、標高は更に高くなり身体の回復にも平地より時間がかかります。そのため休養日の回数が増えました。
平地での休養日は週1回でしたが、高地では3日に1日のタイミングで休養日になりました。泳ぐ距離も、1回の量が平地よりも2000m前後減りました。それに伴い、メイン練習(ハード練習)の量も減りました。
特に最初の3日間は移動の疲れもあるので、水中の練習時間も短く、疲れをとるような、身体をほぐすような練習がほとんどでした。
平地と高地の違い
水中練習では50mのターンで苦しさを感じたり、普段の生活では、プールまでの移動中歩きながら会話をするだけで息が切れたり、尿の回数が増え、代 わりに便の回数が減り便秘のようになったり、時差の関係もありますが、夜中に目が覚めやすくなり睡眠の質が下がったりなど、平地と高地の違いを感じる3日 間でした。しかしこのときが練習も楽で一番楽しかったかもしれません(笑)
ただ、胃腸に負担をかけない為に腹6部目の食事を心がけていたので、常にお腹が空いていて、「お腹が空いたー」が口癖になっていて、さらに、消化に悪い油の多い物も避けるようにしていたので、軽いダイエット中のような状態でした(笑)
初日から2日目
高地トレーニング3日目を過ぎた頃から、腹6部目だった食事から腹8部目になり、練習内容も少しずつハードな練習や呼吸制限などの練習が増えていきました。
そして高地トレーニング1週間目を過ぎた頃には、食事の内容も通常通りになり、練習後には「もう動けない…」という状態まで身体を追い込んでいた状態でした。
選手も高地トレーニングについて理解すること
ここまで私自身の体験談を紹介してきましたが、まとめると、平地と同じ事を高地でもやってしまうと失敗してしまう確率が高くなると言う事です。
きちんと高地環境での身体の変化・身体の適応について指導者だけではなく選手も理解し実施することで初めて高地トレーニングというものが完成するのだと思います。
東御市湯の丸高原スポーツ交流施設PR大使 金藤 理絵